離婚後の養育費の不払いに歯止め

離婚後の養育費の不払いに歯止めNon-payment of child support

養育費の不払いに歯止めを、法制審議会が民事執行法の改正要綱を答申

親には子どもが経済的・身体的に自立して生活ができるまで、子どもの生活費を負担し育てる扶養義務があります。
離婚をして親権を持たない親も親子の関係は離婚前と変わらず継続するので、養育義務も継続し養育に必要な費用の支払い義務があります。
しかし、実際には養育費を受け取れないケースが多く、一人親世帯の子どもの貧困は社会問題となっています。
一人親世帯の子どもの貧困を解消する制度も大切ですが、一人親世帯のみへの公的支援には反対意見も多く養育費の未払いを防ぐ取り組みは理にかなった取り組みです。

養育費の受け取りは国や役所が代行してくれるものではなく、支払い義務者と受け取る本人(多くのケースでは親権者)で解決しなければならない問題です。
しかし、養育費の支払い義務者に支払う意思がなければ、受け取りが非常に困難なのが現状です。また、養育費の支払い義務者の所在が不明であれば交渉が困難ですし、給料支払者や預貯金の特定が難しく差し押さえができないケースもあります。
このような事情から、金融機関や自治体が必要な情報を提供できるよう法律を改正する議論が行われています。
養育費の強制執行をスムーズに行える法改正に関する記事が、日本経済新聞に掲載されていますたので紹介します。

裁判などで決まった養育費が支払われず、離婚後の生活に困窮する家庭は少なくない。これに歯止めをかけようと、法制審議会が民事執行法の改正要綱を答申した。不払いを続ける親に対し、強制執行をしやすくする内容だ。

改正の柱は、裁判所が金融機関や自治体などに対し、相手方の預貯金や勤務先の情報提供を命じる規定を設けることだ。
貯金などの差し押さえには、金融機関名と支店名の特定が必要だが、このハードルが高く、泣き寝入りする家庭は多かった。また相手が勤務先を変える場合もあり、給与の差し押さえも難しかった。

子どものいる夫婦の離婚は、年間10万件を超えている。両親が離婚しても、子どもの健やかな成長のための費用を負担するのは親の責任だ。見直しは妥当だろう。
ただ、養育費を確保するためには、強制執行以前にすべきことは多い。厚生労働省の2016年の調査では、母子家庭で養育費の取り決めをしているのは43%、実際に受け取っているのは24%だけだ。難しい事情はあるだろうが、きちんと取り決め、公正証書などで残しておくことがまず必要だ。
海外では、養育費の確保に国が積極的に関与する例もある。日本でももっと家族を支援する仕組みを考えたい。

今回の答申では、子どもの引き渡しの強制執行についてのルールも盛り込まれた。親権を失った親が子どもを連れ去った場合、その親の不在時に、親権のある親への子どもの引き渡しができるようにする。これまでは明文の規定がなかったうえ、連れ去った親が抵抗すると引き渡しができずにいた。
国境を越えた子どもの連れ去りを解決する国際ルール「ハーグ条約」についても、国内の実施法を同様に見直す。
強制執行の実効性を高めることは、司法判断を尊重するうえで欠かせない。一方、ここでも子どもの利益を最優先に考え、その子の気持ちに十分配慮した運用をしてほしい。

出典:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/
2018年10月04日 配信記事

法制審議会が行った民事執行法の改正要綱の答申内容とは

養育費は離婚した夫婦間で行う一種の契約であり、取り決めを行っていなければ養育費の受け取りは困難です。
今回の民法改正案では、養育費の取り決めを行っているにも関わらず、養育費が受け取れていない家庭を救済する法改正の議論です。
養育費の未払いが原因の子どもの貧困は社会問題となっており、自治体単位でも後押しする条例の議論が行われています。しかし、公正証書を作成していないと養育費の取り決めが公的に証明できず、実行力がある条例の施行が困難という問題があります。
養育費の取り決めを公正証書化すると内容が公的に証明でき、新たな法律ができたときにも救済される可能性が高くなると考えられます。
養育費の取り決めを行うだけでなく、公正証書の作成が大きな意味を持つ可能性があります。

養育費は夫婦間の問題であり、養育費の取り決めや実際に受け取る対応も当事者が行う必要があります。
養育費が支払われなくても、離婚した元夫婦(及び子ども)の民事上の問題であり、役場や警察などの公的機関は原則として対応ができません。
今回の改正案は、預貯金や給料の差し押さえを行いやすくする目的で、裁判所からの開示請求があれば金融機関や自治体が情報提供できる規定を設けるものです。
養育費が受け取りやすくなる法改正ではりますが、養育費の取り決めができていなければ法改正が行われてもメリットが得られません。また、今回の改正案では公正証書が条件となるかは不明ですが、公正証書を作成している場合のみ対象となる可能性が高いと考えられます。
将来的に養育費の未払いを避けるため、証明力が高い公正証書の作成は非常に大切です。
養育費の取り決めや公正証書の作成は必ずしも離婚と同時に行う必要はありません。離婚後に時間が経過していても、子どもが成人に達するまでの期間であれば、新たに養育費の取り決めを行ったり公正証書の作成が可能です。

今回の改正では、親権がない親が子どもを連れ去った場合の改正案も盛り込まれています。
もし、親権を持たない親に子どもが連れ去られてしまっても、今までよりも容易に親権者が子どもを取り戻せる内容が議論されています。
なお、本件とは別ですが、離婚した夫婦双方に親権を認める共同親権の議論も行われています。今後の法改正次第では、親権の基本的な考え方が多く変わる可能性があります。

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